2019年4月23日火曜日

「ブートキャンプ」の教育モデルとしての潜在的市場破壊力

"Bootcamps"

AIやIoTなどの急速な発展に伴い、プログラミング教育やコンピュータ科学の専門家養成に対する需要が拡大している。しかしながら、伝統的な教育では経済界が必要とする技能者を十分に供給できない。
こうした受給ギャップに対する有効な解決策として「ブートキャンプ」と呼ばれる短期集中型の技術者養成プログラム市場が拡大している。アメリカでは毎年少なくとも36,000人以上がこうしたトレーニングを修了している。当初はウェブとソフトの開発に焦点が当てられていたが、今ではUX/UIデザインのような他のデジタルキャリアへ訓練対象が広がっている。

ブートキャンプは学生と企業を主なターゲットとし、非常に単純で明解な価値提案をしている。その事業モデルを破壊理論を使って分析すれば、学生、企業のいずれもが破壊的イノベーションには理想的な顧客層であることが分かる。まず、テクノロジー関連の仕事に必要な実務的スキルを身に付けたいが、伝統的な高等教育ではそのニーズを満たせない学生の多くがブートキャンプを受講している。また、ハイテク関連の伝統的な学位を取得すると、必要以上に深い知識が求められ、多くの時間や費用を無駄にすると感じる学生にとっても、ブートキャンプは適している。

企業にとっても、ブートキャンプは職場で必要とする正確なスキルを持った卒業生を輩出するプログラムを提供している。また、従業員のスキルアップにカスタマイズされたプログラムも提供している。企業はブートキャンプを利用することで新規採用コストと退職率を軽減することができる。プロセスを合理化するため、ブートキャンプ事業者の多くは、労働者が必要とされるスキルについて企業と定期的に協議している。企業側ニーズの変化に応じてカリキュラムとコース内容を見直し、学生がニーズに応じたスキルを習得できるようプログラムを再設計する。

伝統的な高等教育機関は通常こうした顧客層を対象にはしていない。大学は研究施設としての使命と地域社会経済の拠点としての役割が期待されると同時に、一般教養とリベラルアーツおよびキャリア教育のバランスが必要な複雑なビジネスモデルと常に苦闘している。ブートキャンプの受講生の多くはすでに学士号を取得しているため、ほとんどの大学はターゲット市場を浸食されているとは考えていない。一部のブートキャンプ教育モデルを検討している教育機関は、外部のプロバイダーとパートナーシップを組んで、講義のほとんどを外部委託するのが一般的だ。ノースイースタン大学のように「将来に備えて」独自のデータ分析ブートキャンプを構築したケースはごく少数だ。

対照的に、ブートキャンプは受講生が良い仕事を得ることだけに特化し、伝統的な大学の学位プログラムよりも短期間で簡潔にまとまり、かつ合理的に提供されている。ブートキャンプには物的インフラも十分でなければ運動設備や舞台芸術、エリート教員、学生組織など何もない。講師はハイエンドの博士を揃えるのではなく、大学教授や高校教師または教育を得意とする実務家など、さまざまな経歴を持つ人材が採用されている。また、正式な教育機関として認定されていないため学位を取得することはできず、授業料は通常の大学より格段に低いものの政府奨学金の対象にはならない。カリキュラムの観点からも、ブートキャンプでは一般教養課程や基礎的なリベラルアーツ、さらにはコンピュータサイエンス理論への深い考察は提供されない。従来の評価基準で見れば、ブートキャンプは大学の学位取得プログラムに劣後しているかもしれないが、初級レベルの技術職には十分だろう。

ブートキャンプ業界では、2つの異なるオンライン技術を利用してサービスの改善、高級化に努めている。すなわち、オンライン学習とオンライン学習ポートフォリオだ。それぞれ単独でも効果的だが、2つを組み合わせるとより強力な武器となる。コースをすべてオンラインで提供すると、物理的インフラを設置・運用するコストを最小限に抑えて全国規模で事業展開が可能となるうえ、より幅広い人口および時間帯にアピールすることができ受講生の多様化が進む。オンライン学習ポートフォリオは、受講生がブートキャンプで作成する主要なプロジェクトを記録し、習得したスキルをデジタルの明白な能力ベースで表記する。ABCといった成績表や内容不明な卒業証書の代わりに、学生は企業が容易に理解できる形式で学びの具体的な成果を証明できる。利益構造についても、伝統的な教育機関と比べてコスト負担は小さい。通常、ブートキャンプの講師は大学の助教授以上の給与を得ることは難しい。また、ブートキャンプの事業者は不動産などへの投資も少ない。

上記分析に基づけば、ブートキャンプモデルが伝統的な教育モデルを破壊して発展する可能性は十分だ。従来のプロバイダー(大学)では受講できない、または内容過剰な学位プログラムしかない、と考えている消費者層に着目し、シンプルなサービスを安価で提供している。テクノロジーを積極的に活用してオンラインでもプログラムを提供し、従来型の教育機関からライバル視されていない。現在、ハイテク業界向けの人材プールを構築する上で重要な役割を果たしているが、将来的な市場はさらに大きくなる可能性がある。ブートキャンプが高等教育市場を浸食できるかどうかは、政府奨学金へのアクセスや医療や金融など非テクノロジー業界への進出、また生涯学習市場へ参入できるかにかかっている。特に、企業研修の市場は大きく、企業からの収入は収益拡大の機会となる。この分野で競争に勝つには、企業による職場学習への継続的な投資が不可欠だろう。

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