"Blended Learning" 導入方法


ブレンディッド・ラーニングをどのように導入するのか

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1. 学校法人への導入

ブレンディッド・ラーニング(BL)の基本3要件である「個別カリキュラム」「学習者主導」「達成度基準」を実践するには、年齢で一律に固定される学年制ではない柔軟なグループ編成が必要になります。そのため、制度や組織面で裁量の幅が限られる公立よりも相対的に自由度の高い私立小中一貫校のほうが導入のハードルは低いでしょう。そして現実的な方法として、対象とする学年や科目を絞って試験的に導入してから、成功事例を作りつつ徐々に対象を拡げていく選択肢が考えられます。

実際、少子化による生徒数の減少に悩む中堅の私立一貫校にとって、従来の集団画一授業と180度異なるブレンディッド・ラーニングは強力な起死回生策となりえます。アメリカ発祥のブレンディッド・ラーニングにはICT教育やアクティブ・ラーニングなど21世紀型教育と呼ばれる要素が多く含まれており、公立の小中学校では対応が難しい少人数教育や学年横断的なカリキュラムを柔軟に組むことができる点が公立校との差別化を明確に示しやすいのです。



ブレンディッド・ラーニング(BL)の導入は新設校であるほど抵抗が少なくて済む場合が多い半面、歴史の長い学校では独特の伝統や校風、暗黙の了解や既存設備やルールなどが変革に対する障壁となって導入が容易に進まないケースも少なくありません。その場合には、いきなり本丸を攻めて全面的な授業改革を試みるのではなく、「未開拓の市場」を狙って部分的な強化または改善策から着手することをお勧めします。例えば、授業についていけない生徒だけを対象にした補習型の講座を放課後に開講して生徒一人ひとりの苦手弱点克服に特化したBLにしたり、逆に学力の進んだ生徒だけを集めて長期休暇期間中に実験やプロジェクトベースの講座をBLで開講する、などです。BL導入に際して、まずはどんな生徒を対象に、どのような内容(科目)を扱って、どのような結果を期待するのか、学校ごとのニーズに合った具体的な教育目標を設定する必要があります。BLの対象とする生徒と科目と時期が決まれば、対象科目を専門とする先生をリーダーに据えて実行チームを編成します。理想は、学校改革に賛同する教職員の中からBLコースを担当する中心的な先生と、それを補佐するIT担当者が中心になってBLプロジェクトチームを編成することです。学年、科目を限定して小規模で試験的に始めるのであれば大きな組織・人員配置の変更は必要ありませんが、最初は放課後や週末などを利用することを考えると、中学では部活動の顧問は外れてBLの指導に専念されるほうが無難でしょう。また、BLの核となるオンライン学習や個別学習管理ソフト等を利用するために、ネット環境の整備、デジタル機器の調達、使用ソフトの選定など、導入に必要な作業量によってはIT専従者が必要なケースもあるでしょう。

プロジェクトチームがどのような規模やメンバーになるにせよ、プロジェクト成功のカギは、
BLに対する現場トップ(校長)の深い理解と強い支持です。従来の常識を打破して新しいことを実行しようとすると必ず内外から反対の声が上がります。トップが確固たる信念をもってBLの導入を組織全体に徹底して浸透させることが重要です。そして、BL担当の教員はトップに対するプロジェクトの進捗報告を怠らないだけでなく、FBなどを通じて学校関係者や保護者に対しても積極的に情報を公開し、BLに対する不安や懸念を払拭して反対派・懐疑派の理解を得られるよう努力することがBL導入プロジェクトを成功へと導くのです。

ブレンディッド・ラーニングの導入により目指すべき具体的な教育目標は、コースに参加する生徒のおかれた状況によって一人ひとり異なることは言うまでもありません。誤解してはいけない点は、ブレンディッド・ラーニングはあくまで手段であって目的ではないことです。最終的な目標は、「個別カリキュラム」に沿って「生徒主導で学習を進める」ことにより生徒一人ひとりに見合った形で学力の向上を図り、各生徒の「達成度に応じた」ペースで学習を進めることです。個別 生徒の教育目標と学習計画の設定については第4週に詳述し、ここでは全体としてどのような目標を設定すべきなのか説明します。

例えば小学6年生の算数を対象にブレンディッド・ラーニングを試験導入するのであれば、短期的には夏休み明けまでに全員が学校の授業を100%理解できる状態にして、中学進学までに全員が算数検定5級(小学校卒業程度)に合格することを最終的な目標とする、などです。

ブレンディッド・ラーニングを試験的に導入した後は、コース参加生徒と不参加生徒の学力比較、参加生徒の参加前後の伸び、コースに参加する時間の変化などの データを定期的に収集して分析することが必要です。分析の結果や参加生徒の声を参考にして何らかの調整が必要であれば直ちに軌道修正を図り、試行錯誤を繰り返しながら各校の校風に合う形に仕上げていくのが理想です。
 

私自身が運営した学習塾での経験やアメリカの事例を参考にすれば、ブレンディッド・ラーニングの効果が最も表れやすい科目は、小1から高3まで体系的に理解を積み上げていくことが必要な算数・数学です。なかでも、割合や速さなどを学習する小学高学年から、様々な数学的知識を総動員しないと解けない方程式を初めて学習する中学1年前後でつまづいている生徒は、理解できない単元・領域を特定し、理解できるレベルまで遡って個別カリキュラムで集中的に復習すれば比較的早期に追いつくことができます。

何から手を付けて良いか頭を悩ませている学校には、まず手始めに放課後や週末または長期休暇にオンラインコースを利用して無学年・個別カリキュラム方式で算数・数学の後戻り復習をする講座を開設することをお勧めします。その際留意する点は、個々の生徒の 弱点・苦手を的確に見極めて実際の学年にこだわることなく適正な内容・レベルから始めることと、無理なくマイペースで達成できる目標と計画を策定することです。

半年から1年程度限定的にブレンディッド・ラーニングを導入して、それまでの成果を予め決めておいた時期に事前に合意した基準に照らして評価し、その先へ進むか否かを判断します。先へ進める場合には、対象の科目を算数・数学から主要科目へ拡げるか、学年を小学高学年から小中高全学年にするか、さらに実施時期を放課後、週末、長期休暇から通常授業時間帯へと拡げるかなど、試験導入の結果を踏まえ改めて協議して合意することが必要です。

旧来の集団一斉授業とは正反対の教育手法を導入することから、学校によっては内外から大きな抵抗が予想される場合もあります。その場合には、最初から中核授業にブレンディッド・ラーニングを導入するのではなく、対応が遅れている周辺分野・領域、例えば学力的または身体的に特別な支援が必要な生徒を対象としたり、あるいは従来型の授業では対応できていない特別な外国語のクラスなど、いわゆる「未開拓市場」をターゲットにブレンディッド・ラーニングを導入すると抵抗が少なくて済む場合もあります。
  

第3週に決めた選定基準に従って自薦または他薦によりブレンディッド・ラーニング・プログラムへ選出された生徒をPチームメンバーで確認します。選定された生徒について、一人ひとりの現状を確認して課題を洗い出し、何をいつまでにどの程度学習するのか個別に目標を設定します。例えば算数が苦手な小学6年生であれば、中学へ進級する3月末までに小学算数をすべて習得して算数検定5級に合格する、など目標はできるだけ具体的に定めます。そして、分からなくなった単元まで遡って復習を始めると想定して目標達成までに取り組むべき分量を算定し、それを残り日数から逆算してペース配分を決めます。その際重要な点は、個別生徒の学力や集中力、性格などを総合的に判断してことと無理のないペース配分で達成可能な現実的な目標を立てることです。

そして、ひとたびブレンディッド・ラーニングのプログラムを開始したならば、事前に設定した目標ペースと比較しながら実際の進捗状況を管理して、予定より大きく遅れていないか常に注意しながら進めます。遅れている場合には原因を特定し、試行錯誤を繰り返しながら適宜微調整を重ねることも必要です。アメリカでよく見られるのは、学習量が特定の科目に偏り過ぎたり大きな遅れが発生しないように、4〜6週間ごとに生徒と保護者が担任の先生と相談しながら学習計画を見直す手法です。子どもたちが自分のニーズに合わせて計画を立てマイペースで学び、大人はそれを最大限尊重してサポートする体制が取られています。規定された時間数通りに授業を消化さえすれば理解度にかかわらず自動的に進級できる日本と違い、ブレンディッド・ラーニングは「何を・いつまでに・どの程度 学習するのか」各生徒が独自の目標を設定して、ひとつ目標をクリアすると次の単元へ進むという達成度基準進級制だからです。
 

ブレンディッド・ラーニング(BL)における先生の役割は、教壇から一方的に講義をし板書をすることが中心の集団授業とは大きく異なります。BLでは、教科書の内容を口頭で説明するだけの従来型の講義は原則としてオンライン学習が代替するため、これまで教壇に立って授業をすることに情熱を注いできたベテランの先生には抵抗を感じる方もいるかもしれません。現職の先生からは日本でのBL導入に否定的な意見も随分聞きました。アメリカでも当初はオンライン学習の採用で自分たちの存在意義が脅かされると感じた教員が反発しました。

しかし、BLにおいてオンライン学習が代替するのは、おもに教科書に掲載してある内容を個々の生徒の理解度とは関係なく一方的に口頭で説明するタイプの授業およびドリルタイプの比較的単純な問題演習です。BLの教員は、これまで単純講義型授業に充てていた時間を、生徒一人ひとりの演習データを解析して各自に見合った的確なアドバイスをしたり少人数でのプロジェクト学習をサポートするなど、より高い専門性と社会経験が求められる教務に回すことができます。この点が正しく理解されないと、講義に自信のある先生ほど強い拒絶反応を示すようです。

こうして、
BLが導入されると、教師には生徒・児童により異なるニーズに応じて、より付加価値の高い個別指導が求められるようになります。最初の作業は、生徒一人ひとりの学力を客観的に分析・評価すること、生徒とともに目標を話し合い達成基準を明確化すること、目標に至る道筋(ロードマップ)を明示して計画作成を支援すること、そして適正なレベルの教材を助言することです。実際の指導では、単に正解を教えれば済むのではなく、生徒が自ら答えを見つけられるようサポーター役に徹することが生徒の主体性を育みます。

そして、一人ひとり異なる学力や集中力、性格を念頭に生徒がマイペースで進むことを辛抱強く見守り、決して急かさないことが重要です。車の運転席に座るのは先生ではなくあくまで生徒で、生徒が自らの考えで運転することを忘れないでください。助手席に座る教師にとって、生徒が主体的に行動を起こすまで待つというのは忍耐がいるものです。一から十まで丁寧に解説し手取り足取り正解を教えるほうがはるかに楽なのです。しかしそれでは、子どもたちの自主性や行動力を育むことはできません。

20世紀の工業化社会では効率を追求して標準化を最優先にした受動型集団画一教育が主流でしたが、21世紀に入りネットの進化とデジタル機器の発達で生徒一人ひとりのニーズに合わせたカリキュラムの個別化が技術的に可能になったことがBLの普及を後押ししています。BLの基本要件である「個別カリキュラム+学習者主導+達成度基準」を実践するうえで欠かせないのが、映像授業や演習問題ソフト、学習アプリ、校内SNSなど、ネット環境やデジタル機器の進化がもたらしたICTツールです。

なかでも特に重要なのが、MOOCを中心とするオンライン学習講座です。アメリカでは数十あると言われるMOOCのうち、初等教育で広く利用されているのは有名な「カーンアカデミー」です。すべて無料で、算数・数学のコースは小学校から高校で教えられている内容をほとんど網羅しています。一人ひとりの学力レベルとペースに合わせて進めるアダプティブラーニングに最適で、演習問題を解いて理解が不十分だと判定されれば、関連する単元のビデオ解説を何度でも見返すことができます。
 

複数のオンライン教材会社にデモを依頼し、導入するブレンディッドラーニングの対象とする生徒のレベルや科目を勘案したうえで自校の教育目標を達成するために最適な教材をPチームのメンバーを中心に十分に話し合って選定してください。生徒の使い勝手に加えて、教員側の操作性、学習データの分析能力、予算との兼ね合い、メンテナンスの利便性、など様々な項目を比較検討する必要があります。端末は、生徒ひとりひとりにタブレットを配布できれば理想的ですが、デスクトップ型PCならば生徒5人に1台程度の配置でも上手く回せれば対応できるはずです。
   
ブレンディッド・ラーニングで使用する映像授業には、講師による講義を録画したものからアバターが要点を説明するもの、解説ナレーションだけのものなどさまざまな種類があります。また、重点を要点解説か問題演習に置くかによって長さも3分から20分超まで大きく異なります。短時間なので分かるまで何度でも繰り返し視聴できるというメリットがあります。理解できていれば見る必要はありません。日本の学習塾や学校向けには、「すらら」や「スタディサプリ」「アオイゼミ」「スマイルゼミ」など主要教科をカバーし学習指導要領に準拠した有償のeラーニングソフトがいくつか販売されていますが、無料で小中高全学年の主要科目を全てカバーしたオンライン講座はありません。

アメリカでは国語(英文読解)については、Lexile(レクサイル)指数などで表される各自の読解力に見合った内容の文章を適度なスピードで提供し、読書速度の計測機能と簡単な理解度確認クイズが付いた「Achieve3000」などの市販ソフトが使われるケースが多いようです。自分が読破した書籍が仮想本棚に蓄積され、知らず知らず相当な読書量に達していたという話をよく聞きます。日本語で似たような教育 用の速読聴サービスとして「ことばの学校」や「わくわく文庫」がありますが、著作権の関係で掲載タイトルが限定されているのが残念です。昨年、アマゾンで「聞く書籍」(Audible)のサービスが開始されましたので、子ども向けのタイトル数が増えて朗読スピードを調整できる機能が付けば、読解力養成手段 として利用できる可能性がありそうです。
学習管理システム(LMS)を使うことによって、保護者は子どもの学習状況をリアルタイムでチェックできるので、我が子が学校で何をやっているのか、どんな宿題が出て期限はいつなのか、などを常に把握することができます。また、個別カリキュラムですので休日や時間割は家庭の都合に合わせて融通が利きます。その反面、小学校では学習計画の立案サポート、中学・高校ではプロジェクト学習や職業学習の手伝いなど、学校教育に積極的に関与することが求められます。欧米に比べて残業が多く、育休が取りづらい日本の共働き世帯にとっては解決すべき課題でしょう。

ブレンディッド・ラーニングの学校では、生徒はパソコンまたはタブレットでオンラインで学習に取り組みます。生徒10〜20人に先生(ガイドやコーチと呼ばれる)が1人の割合で付いて、オンラインで上がってくる学習データをリアルタイムで分析しながら生徒に適宜助言を与えて生徒が学習を主体的に進められるよう側面からサポートします。加えて、プロジェクト学習、校外学習、運動、実験や絵画工作、グループ討議、専門家の講演なども随時実施されます。指導形式や学 習内容が非常に多様であるため、多くの学校で自由に動かせるような可動式のテーブルやソファ、本棚などを「スタジオ」型の空間に置いてあるだけです。日本のようにどの学校へ行っても黒板と教壇が前にあり、生徒の机が整然と並んでいるといった風景は見られません。

非常に進んだ学校では、年齢 別の学年もなければ○年○組というクラスさえありません。生徒の学力や興味関心に応じて学習カリキュラムを個別に作成し、生徒は時間割に従って「算数」「言語」「科学」「図工」「地理歴史」「自然」など科目別のアトリエ(教室)を移動しながらマイペースで学習を進めます。ですから、同じ部屋で異なる年齢 の生徒がそれぞれの課題に取り組んでいることもあります。各部屋では科目の専門教員(コーチ)が指導に当たり、実生活で役に立つようにとデジタル機器に頼らない理科の実験や図工の製作のような複数生徒で取り組むプロジェクト型学習も実施されます。
 

ブレンディッド・ラーニング(BL)の導入を検討する学校や教員が間違えてはいけない点は、BLはあくまで手段であって目的ではないことです。最終的な目的は、「個別カリキュラム」と「達成度基準進級」の実践により生徒ひとりひとりに見合った学力の向上を図ることです。

BLの導入後は、BL参加生徒と不参加生徒の学力比較、参加生徒の参加前後の伸び、BLに参加する時間の変化などのデータを定期的に収集して分析することが必要です。分析の結果や参加生徒の声を参考にして何らかの調整が必要であれば直ちに軌道修正を図り、試行錯誤を繰り返しながら各校の校風に合致する形に仕上げていくのが理想です。

そして、予め定めた時期に、予め決めた基準に照らしてBLプロジェクトの成否を判断することから始めると良いでしょう。そして、対象科目をBL算数・数学から主要科目へ拡げるか、学年を小学高学年から小中高全学年にするか、さらに実施時期を放課後、週末、長期休暇から通常授業時間帯へと拡げるのかなど、段階を踏んで決定していくことをお勧めします。









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