2018年2月9日金曜日

オンライン教材評価⑥「eboard」

前回から少し間が空いてしまいましたが、オンライン教材評価レポートの第6回は「学びをあきらめない社会の実現」をミッションに、経済的、地理的または身体的理由から十分な学習機会に恵まれない子どもたちにインターネットで授業動画を配信し、無料で学べる環境を提供しているNPO法人「eboard」(イーボード)です。


中村代表自らが朴訥とした関西弁で講義をする独特の動画は手作り感にあふれ、大手とは一味違った親しみやすさを感じる生徒も多いのではないでしょうか。その中村代表にインタビューに応じていただきました。

事業継続性 ☆☆
中村代表が学習塾で教えていた際に、本当に学び直しが必要な生徒に対する指導が十分でないと感じたことを動機に、2011年7月にオンライン教材の配信事業を開始、2013年12月にはNPO法人化しています。この間、島根県益田町の中学校で公教育現場としては初めてeboardが採用されるなどした実績が認められ、2014年日本eラーニング・アワード「文部科学大臣賞」を受賞しました。2015年からは総務省の「ICTドリームスクール実践モデル」に採択されるなどして、事業開始から6年以上経った現在では全国300近い学校や学習塾・NPOなど様々な教育現場で eboardが活用されています。
中村代表の地道な努力によりeboardの利用が着実に拡大している一方で、非営利のNPO法人ということもあり、財務基盤は営利目的の同業他社と比べれば格段に小規模です。動画や問題の作成、通信費、出張費、人件費など、年間1,000万円を超える経費は、受託事業からの収入の他、NTTコム、マイクロソフト、Z会など企業からの協賛や個人の寄付金、それと大勢のボランティアの協力によって支えられている状況です。eboardが将来にわたって安定的に事業を継続するには財務基盤の強化が必須でしょう。

コンテンツ ☆☆☆
算数・数学は小学1年から高校数学Ⅰまで、英語・理科・社会(地理・歴史)は中学3年間をカバーしている一方で、国語は著作権のハードルがあり現在のところ漢字学習動画のみ作成中です。合計で約2,000本のナレーション動画解説と5,000問の演習問題が利用できますが、高卒認定試験合格に必要な基礎学力を習得することを目標に一歩一歩着実に学習できるよう、動画解説はほとんどが1本10分未満です。また、動画に続いて取り組むようになっている演習問題は教科書の基礎・標準レベルで、選択式と数字や英単語の穴埋め式になっています。無料の教材に多くは望めませんので、全文記述の練習が繰り返し必要な英語の作文問題や数学の証明問題などには問題集を別途用意することをお勧めします。

機能・操作性 ☆☆☆
デバイスは、パソコン、タブレット、スマホいずれにも対応しています。動画解説のスピードも生徒の理解度に合わせて0.5x~2.0xまで5段階可変です。対象とする生徒の学力を考慮して、インタラクティブな講義やアダプティブな問題提示には敢えてしていないそうです。また、どうしても理解できない場合でも基本的に質問は受け付けていませんが、有料オプションでもサービス提供があれば生徒の利便性は高まると思います。

学習管理システム ☆☆
当初の学力レベル診断は、先生や講師が利用できるよう診断テストがダウンロードできます。学習進捗状況は基本的に生徒自身または先生、講師、保護者がデータにアクセスする形式ですが、各生徒が動画解説や演習問題に取り組んだ学習履歴データを各端末から確認可能です。生徒一人ひとり個別の目標とそこに至るロードマップの消化状況まで可視化されるようなシステムがあると生徒のモチベーション向上にもつながるものと思います。

料金設定 ☆☆☆☆
公教育および無償の学習支援に対しては、原則無料でアカウントが発行されます。学習塾で導入する場合でも初期費用はなく、1教室当たり月額数千円の協賛金と大手のオンライン教材と比べて非常に良心的な設定になっています。公立学校やボランティアによる学習支援サービスなどにとっては導入のハードルが非常に低いと思われます。

セールスポイント
原則として無料であることが最大のセールスポイントですが、eboardのミッションを反映して、低学力の生徒が一歩一歩確実に基礎力を習得できるよう動画や問題が設定されていることも、受験を強く考慮した民間大手の教材とは一線を画している点です。

今後の課題
逆に言えば、難関校を目指す生徒には内容的に物足りないと映るかもしれません。対象となる学力層や年齢を広げる工夫をすると同時に、不足している科目を提供することが喫緊の課題でしょう。また、利用者が安心して継続利用できるように財務基盤を安定させることも不可欠です。VCなど短期間でリターンを求める先からの出資等はまったく考えていないとのことですが、長期的な観点で教育事業に理解のある大口スポンサーを確保するなど、有効な対策が必要でしょう。

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