2019年6月9日日曜日

崩壊する大学の事業モデル(アメリカ)

"The Business Model of College is Collapsing under Its Own Weight"

いまアメリカは卒業シーズンたけなわだが、多くの一流大学で定員割れが生じた。同時に、授業料のディスカウント率も過去最高レベルになっている。教育を受けた技能労働者に対する需要は年々高まりながら、多くの大学が経営に苦労しているのだ。

その原因は、大学の事業モデルの破綻だ。

毎年春になると、全米中の家庭が大学からの入学許可を首を長くして待つ。同時に、大学側にも心配事がある。大学の事業モデルは入学者数に大きく左右される。寮制の大学は定員オーバーとなるリスクは取れない。一方で、大学は大きな固定費を抱えているため、定員割れになれば利益の減少に直結するのだ。

定員が充足した大学でも、学生の質は変化してきている。名目上の授業料は過去最高レベルになっても、実際の授業料収入はほぼ横ばいだ。授業料のディスカウント率が50%を超えるまでになっているからだ。しかしながら、全ての学生にディスカウントが適用されるわけではない。私立大学では、学生の89%が奨学金を受けているが、残り11%の全額支払っている学生を確保することが至上命題だ。しかし最近では、こうした学生でさえ、公立大学を選ぶケースが多くなり、毎年授業料が上昇するにつれ、その傾向はますます強くなっている。

人口減少と数十年にわたる授業料の上昇は、伝統的な大学に対する需要に変化をもたらしている。長期的には、大学は破壊的な圧力に直面し、短期的には、大学の事業モデルはその自重で崩壊しつつある。

では、大学はどう対処すればよいのか?

多くの産業では、市場が縮小すると企業はコスト削減と製品開発に邁進しなければならなくなる。大学も同様だ。ここ何十年もの間、授業料割引率を毎年数パーセント上げ続けても学生からの注文は止まらず、設備の充実に必要な資金を調達するために全額支払う学生を確保しようと苦闘してきた。

ここ最近、事態は変化している。大学の卒業資格を得るアメリカ人が増えるにつれ、人口減少が過去数十年着実に進んだ業界に新たな問題を生んでいる。授業料の割引率は大学の経営者が深刻に考えざるを得ないほど高いレベルに達した。しかし、解決策はあるだろうか?

まず第一に、当然ながらコスト削減だ。しかし、何十年にもわたり大学をより良い場所に変え、全額支払いの学生にアピールしようと努力を続けてきた大学は、コスト削減には抵抗がある。他の業界では受け入れられても、大学の経営者はコスト削減が負の連鎖を引き起こすことを恐れている。すなわち、低コストが低品質と見られ、学生数の減少につながるかもしれない。そのうえ、コスト削減はガバナンスの充実や大規模な予算委員会、カリキュラム削減に対する抵抗などの歴史的かつ文化的な流れによって難しくなる。

次に重要なことは、価値の提示だ。重視する価値は学校によって違うが、いずれにせよ測定可能であるべきだ。学生を有効な就職へ導くことを重視している大学は、卒業生の労働市場での評価を計測すべきだし、学びそのものを重視する場合は、学生の入学時と卒業時の学力を計測して、その結果を明らかにすべきだ。楽しいキャンパスライフを提供することを重視している大学は、学生の満足度を計測すべきだ。競争の激しい世界では、生き残りをかけて自らが提供する価値を実証する必要があるのだ。

それでも大学は、生き残るためには長期的には全く新しいビジネスモデルを構築する必要があるかもしれない。破壊的イノベーションは大学業界にも波及しており、急成長を遂げている多くの学校はすでにこうした現実に対応している。例えば、かつては北東部の学生数が減少する小規模な大学であったSouthern New Hampshire University はオンライン重視に転換して、現在では10万近い学生が受講している。

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