近年、オンライン学習の需要は右肩上がりだ。アメリカの大学生の3人に一人が少なくとも一つのオンラインコースに登録している。しかし、実際の受講率と長期的な継続率の向上が大きな課題だ。オンラインコースを提供するHarvardXとMITxの調査によると、498,000人の受講者のうち、「修了証書の取得に十分なコース活動をすること」を意図している学生はわずか30%だった。
そこで期待されるのが、ハリウッドの持つ「物語創作技術」だ。USC、American、Georgetown、Tulaneなどの一流大学が、オンライン講座を学習者の注目を集める物語仕立てにできるエンターテイメントの専門家に注目している。5000年前の神話の時代から物語と学習とは不可分ではあるが、面白い授業は学習者にとって本当に有益なのか。
対面型授業からオンライン講座へ全面移行したStrayer大学では、移行早々に多くの社会人学生を失った。「退屈」な講義が原因であったので、ドキュメンタリープロデューサーとディレクターに依頼して映画制作者と学習デザイナーのチームに実験的にBusiness 100コースを再設計させた。映画制作者と学習デザイナーのチームは、まず学習者が何を必要とし、何を学びたいのかについて理解し、学習が進むにつれて沸き起こる学習者の感情を把握した。そして、学習者の興味を引くような物語を作成し、説得力のある現実的なキャラクターを登場させた。講座内容を的確に説明し、学習者を惹き付けるキャラクターの選定が最重要ポイントだ。
Strayer大学の学生の74%が有色人種、62%が女性、そしてほぼ全員がパートタイムで受講している社会人学生だ。 学習者に親近感を抱かせるため、GoogleやTeslaといった有名企業を使うのではなく、ヘアケア製品を開発して販売し始めたアフリカ系アメリカ人女性起業家のような一般にはあまり知られていないキャラクターを登用した。自分と関連のある内容には注目が高まりより深く掘り下げて学習する傾向がある。Strayer大学ではこうした物語仕立ての映像授業を倍増し、今日では全学生の50%に配信している。その結果、退学率は10%減少し、継続率は5.5%改善し、提出課題の量は6.3%増加した。全体では、約85%の学生が最初から最後まで受講し続けた。
Strayer大学の事例から、学生の受講率を上げるにはビデオの量を増やせばよいと結論付けるのは容易だ。実際、Harris Pollの調査によると、Z世代の59%がYouTubeを好ましい学習法とし、書籍の47%を凌駕している。この数字は、ミレニアム世代と比べても高い。何かのやり方を説明するには、単に口頭で説明するよりも、現実的なキャラクターが登場する物語仕立てのビデオの方が説得力があり、関連性があり、学習者に成功の予感を与え、困難を克服できそうだと信じさせることができるのだ。
しかし、大量の視聴覚要素を持つビデオは学習者の作業負荷を過剰にしてしまう可能性もあることに注意が必要だ。簡単な文章、画像なしの録音、単純なシミュレーション、固定映像のアニメでさえ、複雑なビデオよりうまく機能するケースもある。 ビデオは他のメディアよりも理解に長い時間を必要とする場合もある。また、自分に関連のある事項に注意がそらされることで肝心なポイントを見逃す原因にもなる。認知的に単純な物事にはビデオは素晴らしいメディアだが、逆に認知的に複雑な事項を理解するには、ワーキングメモリーに負荷をかけないよう学習を単純化する必要がある。
物語には、学生が学習を開始し、継続し、必要な努力をすることを手助けする多くの要素がある。ハリウッドがオンライン学習の変革に手を貸し、学習者の動機を高めるよう助力するならば、教材が娯楽ではなく学習を最優先に設計されていることを確実にするために教育デザイナーと協力することが不可欠だ。
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