”To Solve Workforce Problems, First Solve the Student Loan Crisis”
アメリカでは数少ない男子大学の一つであるモアハウス大学(ジョージア州アトランタ)は、キング牧師や映画監督のスパイク・リー、俳優のサミュエル・ジャクソン、政治家など数多くの著名人卒業生を輩出している。先日、
億万長者の卒業生ロバート・スミスが、モアハウス大学の今年度卒業生が抱える学生ローンを全額肩代わりすると発表した。寄付額の規模にも驚かされるが、アメリカで学生ローンが大きな問題となっている中、大きな好意をもって受け取られた。
学生ローンの負担は、毎月の支払いだけではない。借り手は、債務不履行になることを恐れて専門外の分野で低い給料で焦って就職し、数十年にわたり困窮生活が続くケースが少なくない。こうなるリスクを避けるため、収入分配契約(ISA)を提供する教育機関が増えている。
ISAは学生ローンの問題を一気に解決する特効薬ではないが、教育機関が学生の長期的成果にも目を向けるインセンティブとなり得るうえ、高等教育に大変革を起こし、有効で強力な労働力を生み出す可能性を秘めている。
ISAの仕組み
ISAのもとでは、学生時代に授業料を支払う代わりに、就職後に所定の期間収入の一定割合を教育機関に返済する。通常、収入が決められた最低収入額を超えたときにのみ支払いが開始され、一回の返済額にも上限が設定される。
またISAでは、返済期間が終了すれば、仮に返済額が授業料総額より少なくとも契約は完了となる。この点は学生ローンとは非常に対照的だ。通常の学生ローンの返済期間は、ローン元本が全額返済されることを前提に設定され、返済期間が長くなるほど支払利息額も増える。
アメリカでは毎年およそ100万件もの学生ローン不履行が発生しているが、これを回避するのにISAが有効であることは明らかだ。 学生や労働者にとって価値、そして最終的には成果をもたらすイノベーションを促す可能性を探る価値がありそうだ。
学生にROIを保証
卒業生の就職状況が返済額に直結するならば、教育機関が学生の指導や就活に熱心になる可能性は高い。ISAでは期待通りの成果が出ないリスクの一部を教育機関に付け替える。そうすることで、授業料に対する投資収益率が良くない場合は、卒業生がそのリスクを抱え込むことはなくなる。
さらにISAは、教育機関にプログラミングのブートキャンプを提供して、最も重要な専門スキルに集中し、トレーニング中には学生をサポートし、かつ就職活動の最適化を支援するインセンティブとすれば、採用企業側にも金融メリットが発生する可能性がある。
非営利大学では、高収入の卒業生によって返済される授業料を今後入学する学生の助成金として活用することが可能だ。
対照的に、伝統的な学生ローンにはこうしたインセンティブは無い。教育機関は、学生の卒業後の成果にかかわらず、授業料の全額をローンから前受けするからだ。ISAでは、リスクの一部を学生から教育機関に移すため、インセンティブに欠ければ最終的には納税者が肩代わりすることとなる。
要するにISAでは、教育機関には卒業生が適切な仕事に就いて雇用主にも価値を生み出すことで早い時点で高収入を確保できるよう支援するインセンティブが与えられる。一方、学生ローンは、卒業後の返済期間が長いほど返済総額が多くなる仕組みだ。
教育および訓練プログラムの機会の増加
ISAはまた、伝統的な学生ローンでは不可能な、教育や訓練プログラムを受ける機会の増加に寄与している。例えばコロラド州では、連邦支援プログラムから除外されているDACA(若年移民に対する国外強制退去の延期措置)の学生に高等教育を受ける機会を供与している。またISAは、ほとんどがTitle IV(連邦奨学金プログラム)の対象外であるブートキャンプでも急増している。こうした高い投資収益率を生み出すプログラムは、ますます重要性を増しているハイテク業界の人材を確保するうえで不可欠となっている。
学生ローンの危機は、授業料の高騰の阻止と解消、大学プログラムの労働市場への適応力の改善、およびローン以外の革新的な資金調達策の導入など、いくつかの問題に取り組まないかぎり解決しない。ISAは、教育機関がこれらの課題に取り組むようインセンティブを与え、正しいガイドラインに守られてこそ、必要とされる解決策の一つとなりえる。学生ローン問題を一気に解決できるだけの億万長者は存在しないのだから。
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