オンライン教材評価シリーズの第8回は、ベネッセとソフトバンクの合弁「Classi」です。ベネッセが長年築き上げてきた教育に関する知見や全国の高校との取引関係に、ソフトバンクの持つクラウド技術やネットワーク環境構築ノウハウを加えた、ICT教育を推進するには理想的とも見えるパートナーシップの運営状況を客観的に評価したいと思います。
1. 事業継続性 ☆☆☆☆
Classiは2015年4月に高校生向けの教材配信からスタートし、その翌年には小中学校、専門学校、大学へとサービス対象を拡大しました。2015年の日本 e-Learning大賞で経済産業大臣賞を受賞しています。
その後利用者は順調に拡大している模様で、全国の中高一貫校含む高校での導入数は、2017年4 月時点での1,800校から12月には2,100校を超え、同じ8か月間で有料利用者数は70万人から80万人を突破するまで増加したと発表されています。
詳しい料金体系は非公表ですが、一人月額300円という情報をもとに単純計算すると、事業の売上は30億円程度と推測されます。
2. コンテンツ ☆☆☆☆
中高生向け教材として計2万本を超える学習動画を視聴することができます。学校での授業だけでなく反転学習の予習や家庭での復習用教材として、また日々の宿題から大学受験対策まで、様々な学習の目的に合わせて活用できるよう、学年・科目に見合った複数の外部コンテンツを導入しています。
例えば、小学算数・中学数学や中学の英語・理科、地理・歴史はeboardの解説動画を、また高校英語については学びエイドの有名予備校講師による5分間講義動画が3,300本配信されています。理科については、教科書や学年に関係なく、科学技術振興機構が提供する科学技術の動画専門サイト「サイエンス チャンネル」から生命、宇宙、エネルギー、環境等に関する動画約500本が視聴可能です。これらに加えて、ベネッセが個別指導学習塾用に作成している大学受験対策動画(英数のみ)も5,000本視聴できます。
動画解説と関連したウェブドリルは簡単な設問が2~3題あるだけですが、有料オプションとして大手出版社の問題集から厳選した3万問以上の問題集パックを購入することができます。現在、1,000以上の単元と6段 階の難易度に分類された約7万の問題が提供されています。
また、ベネッセが提供する学力診断テストと連携することで、生徒一人ひとりに最適な動画+問題が推奨され、何を学習すべきか迷うことなく弱点補強ができるよう設計されています。特に、アダプティブラーニングエンジン「Knewton」を導入して、生徒の学習理解度に合わせて学習内容を個別最適化し、生徒一人ひとりに対して取り組むべき問題を提示しています。さらに、東京⼯業⼤学の徳永研究室と協⼒して、⾃然⾔語処理を⽤いて⾃動で問題を作成する仕組みを実⽤化するための実証研究に取り組んでいます。これが完成すれば、さまざまな問題を早く⼤量に⽣成できるようになり、これまで以上に学⼒に応じた最適な問題を提供できるでしょう。
3. 機能・操作性 ☆☆
デバイスは、パソコン、タブレット、スマホ(先生用を除く)いずれにも対応しています。教材用のビデオは、0.8~2.0倍速まで5段階で変速が可能です。
Classiは学校現場での先生による利用を最優先に設計されているためか、生徒による質問解答機能は用意されていません。
4. 学習管理システム(LMS)☆☆☆☆
Classiの最大の特徴は、現場で教える先生方の利便性を重視した学習管理機能にあるといえるでしょう。
まず診断テストを受けると、生徒の科目ごと単元別の理解度が5段階で判定されます。これをもとに学習計画を立て、実際の進捗状況や単元別の成績が「学習マップ」で確認できます。また、単元ごとのウェブテストは、生徒の個別の解答内容だけでなく、正解率や所要時間なども確認できます。先生は生徒の授業の理解度を把握して授業を振り返り、生徒は自身の学力レベルを正確に理解して目標設定や課題を意識することができます。
「生徒カルテ」には、生徒の授業態度や出欠、提出物などのデータを一元管理する機能にくわえて宿題や小テストをの配信・集計する機能もあり、質の高い生徒指導を提供するための活用が期待されます。
「コミュニケーション」機能を使うことにより、先生同士の情報共有や生徒・保護者へのお知らせ配信などに役立ちます。
5. 料金設定 ☆☆
初期費用や学年・科目ごと料金体系の詳細などは非公表ながら、利用は生徒1人あたり年3,600円という情報もありますので、例えば全校生徒1,000人の学校で導入すると年間費用は360万円となります。この他にデバイスや通信費用も必要ですので、やはり私立高校での利用がメインになるでしょう。
セールスポイント
学習教材(動画解説)は外部からコンテンツを調達する一方で、学習履歴の保存や保護者との連絡機能も具備するなど、学校現場での利用を想定した統合的な学習プラットフォームになっていることが最大の特徴と言えます。
特に、AIを使ったアダプティブな問題作成機能は、他社製品より一歩先行する取り組みとして高く評価できます。
今後の課題
学校現場での先生方による利用を重視した設計になっているため、相対的に生徒の利便性が軽視されているようにも見えます。たとえば、動画解説を一方的な講義形式だけでなくインタラクティブな型式のものも導入すれば生徒の理解がより深まると感じます。また、タッチペンでの入力が可能になれば記述問題にも対応でき、これまで以上に幅広い対応が可能になるでしょう。
0 件のコメント:
コメントを投稿