2017年12月23日土曜日

オンライン教材評価②「スマイルゼミ」

ブレンディッドラーニングを導入する際に不可欠なオンライン教材を評価するシリーズの第2回は「スマイルゼミ」です。先日、たまたま近くのショッピングモールで同社の体験会がありましたので、タブレットを実際に操作しながら質疑応答し、その場で即答できない点については後日コールセンターへ問い合わせました。


スマイルゼミの運営母体は、1990年代にワープロソフト「一太郎」で圧倒的なシェアを誇ったジャストシステムです。一太郎がMSワードとの厳しい競争に巻き込まれ、その他の製品開発も不調に終わったことから資金繰り難に陥り、2009年には超優良企業として知られるキーエンスから45億円の出資を受けました(出資比率44%)。新しい経営体制のもと大胆なリストラと意欲的な新規事業に取り組んだ結果、2012年から5期連続最高益を更新して昨年度は売上が200億円を突破するなど、業績が急回復しました。なかでも、2012年11月から小学生向けにスタートしたスマイルゼミは順調に業績を伸ばし(中学生向けはその翌年から)、今ではジャストシステムの牽引役となっています。


事業安定度 ☆☆☆
スマイルゼミはサービス開始から順調に会員数を伸ばし、すべて個人入会ながら事業開始からわずか1年で10万人を突破した模様です(事業売上とともに現状は非公表)。ジャストシステムは文書ソフトをはじめ、ウイルス対策やホームページ作成、はがき作成など数多くの一般消費者向けソフトを販売していますが、一太郎と同様に同業他社との激しい競争は不可避です。したがって、スマイルゼミがいかに好調でも、別会社化されていないため全社的な業績に影響されることは否めません。究極的には、親会社のキーエンスが自社の本業(ファクトリーオートメーション)とのシナジーが高いとは思えない教育事業をどのように位置付けるか、この判断に左右されると言えるでしょう。相次ぐ新規参入で競合がますます激化するなか、スマイルゼミが好調なうちに分離し、売却またはIPOを検討する可能性も十分あると思います。


コンテンツ ☆☆☆
サービス対象は小学1年から中学3年で、科目は主要5科にくわえて、中学生には実技4科まで提供しています。教科書にほぼ準拠した標準的なレベルです。また、漢検や英検の対策コースも用意されています。要点解説とドリルが独立しているのではなく、基本的にアニメと文章による質疑応答形式で学習は進み、一単元が15~20分で完了するよう設計されています。
中学生には、応用問題や難関高校入試対策までカバーする特進クラスも用意されていますが、標準クラスではどんなに優秀な成績でも難問は提供されません。


機能・操作性 ☆☆
学習はすべてスマイルゼミ専用の10インチタブレット上で進みます。中高生の9割が何らかの形で勉強にスマホを活用している昨今、スマホへの対応は今後の課題でしょう。回答の入力は専用のタッチペンを使いますが、その認識度は非常に高く、文字変換に関してストレスを感じることはありませんでした。
ただし、どのクラスを選んでも毎月配信される内容は学年ごとに決められており、理解度によって過年度に遡って復習したり、逆に先取りで学習を進めることはできません。これは、教材をオンラインで提供することで実現できる柔軟なカリキュラムやアダプティブな環境設定をわざわざ放棄しているにほかならず、オンライン教材としては致命的な欠点と言わざるを得ません。
動画を途中で止めたり巻き戻す機能はあるのですが、理解ペースに応じて速度を変更できる機能が追加されると使い勝手がさらに向上するでしょう。
生徒が問題を解いて誤った解答をした場合、ヒントが出されますが、それでも理解できないときには映像解説を見ることができます。しかし、誤答の内容にかかわらず提供される類題は一律で、さらにどうしても理解できない場合の支援機能(メール、チャット、電話など)がないことは、物足りない点です。


学習管理機能 ☆☆
スマイルゼミの最大の課題は学習管理機能です。保護者は子どもの学習内容や時間、結果をスマホやパソコンから確認できるのですが、初期の目標設定や日々の進捗管理といった機能はありません。つまり、保護者が学習履歴を能動的に確認しない限り子どもは普通の通信教育と同じように放任され、最初はタブレットで面白がって勉強しても慣れてきたときにモチベーションを維持することが難しいように感じました。


料金設定 ☆☆☆
標準クラスで毎月払いにすると、小学生は1年3,600円から6年5,900円、中学は1年6,980円から3年
7,980円です。これに専用タブレットの料金9,980円(初期一括払い)が別途必要です。学習塾へ通うことと比較すれば割安感があります。


セールスポイント
平均的な生徒を対象とする標準クラスとは別に、高学力生徒向けに特進クラスを持っていることは、難関校を目指す生徒にとってはありがたいでしょう。
また、次期学習指導要領で小学校に導入されるプログラミング教育に対応した講座を新設するなど、新しい教育にも意欲的に取り組んでいる姿勢がうかがえます。


今後の課題
1999年にリリースした学習・授業支援ソフト「ジャストスマイル」は全国の小学校の8割以上で導入されており、こうしたチャネルを活かした学校法人向けのコンテンツサービスを開始すれば、新たな市場の開拓が見込めるでしょう。
しかしながら、毎月の学習内容が学年によって一律で、学力レベルに合わせて実際の学年を超えて自由に学習することができないうえ、第三者によるチューター機能がないなど、毎月郵送されてくる従来型の通信教育を単にデジタル化しただけとの印象はぬぐえず、オンライン教材の最大の特性であるアダプティブでインタラクティブな環境を実現するような根本的なシステム改善を期待したいと思います。

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